流線形シンドローム ~ 疾走するイメージと危険思想 | 建築マニアクス

流線形シンドローム ~ 疾走するイメージと危険思想

流線形シンドローム 速度と身体の大衆文化誌/原 克
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流線形が大好きなんです。

最新の乗り物ではなくて、ちょっとレトロな感じのする流線形が特に好きです。
こんなの とかこんなの とかさらにこんなの とか。

とくに最後のリンクは満鉄の「あじあ号」なんですが、客車まで徹底的に流線形なので
カッコイイですね。侵略の是非はちょっと別にして。

大東亜共和圏の実現させるためには日本の優れた技術で亜細亜を導いていく必要がある。
「あじあ号」はそういうイデオロギーを体現しているんですよね。
流線形は単純に空気抵抗の低減に留まらず、理念を形にするために利用された歴史があるんです。

そんな流線形の歴史を丹念に追っているのがこの本です。
最初は古い流線形の写真がいっぱい載っていて面白そうだな。と思って買ったんですが、
内容も面白かったです。

流線形が出始めた頃は単純に「空気抵抗の低減」だったわけですが、
そのイメージが拡散していくんですね。つまり「○○抵抗の低減」→「障害因子の削除」というように。

例えば「流線形建築」とかがあるんですけど、なんで建物なのに流線形?って思うんですが、
従来の職人が作る無駄のあった建築方法から、建築方法のシステム化や近代化によって
建てられたことにより「流線形建築」と呼んだわけです。
「無駄な建築方法の排除」=「流線形」という図式ですね。

あと苦笑してしまったのが「心の流線形」です。
1930年代に出版された啓蒙書なのですが、その本には「多く人は本来備わっている能力を活用しそこなっており、無駄が多いといえます。そのためには効率的な思考方法が必要です。今からでも決して遅くはありません」
というようなことが書いてあり、何のことはない、現代のビジネス書となんら変わりません。
1930年代のサラリーマンも、現代のサラリーマンも悩みは大して変わらないって事ですね。

そしてこの本のクライマックスとなるのが「流線形」と「優生学」の関わりです。
1930年代のアメリカの美人コンテストの審査の中で、理想の体型のシルエットをくぐり抜けるという
今考えるとギャグなんじゃないか?みたいなことが行われたそうなんですが、
これに著者は理想の体型に当てはまらないものを排除するイメージを持つに至った
流線型との関わりを見つけます。
(他にも流線形ポテトとか、流線形サボテンとか、笑うに笑えない例が紹介されています)

流線形のイメージが不幸にも抱え込んでしまった優生学的発想を丁寧に追っている本で、
面白かったです。

あとこの本には書かれていないことなのですが、流線形が持つ魅力そのものが支持されるようになって、
商品のデザインのサイクルが短くなり、アメリカの製造業に大きな影響を与えたそうです。
流線形は大量消費社会のサイクルを推し進めた側面もあるのですね。

また、余談ですがちょっと前にブームになったiPhoneも流線形でその理由を説明できると思います。
「ボタンがなく、直感的に操作できそう」=「複雑な操作という障害因子の排除」という図式です。

「流線形」という息の長いブームはまだまだ続きそうですね。


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